Thursday, January 29, 2009

日本語であそぼう



 アメリカの道を車で走っていると、鹿、アライグマ、うさぎ、きつね、スカンク、まれに熊などに出会う。そのほんとんどがすでに悲しい姿をしているけれど、時速100キロ近くで走る高速では車も急には止まれない。

 ある日、夕暮れ時に車を走らせていると、鹿が前を横切ろうとしている。驚いている私の横でアブちゃんが冷静に、

 「びっくりドンキーだったね。」という。
 
 本人はさほどびっくりもせず、落ち着いて鹿をかわしたにもかかわらず、ひょうひょうと「びっくりドンキー」なんて言うので拍子抜けする。

 この他にも、日常、彼はちょいちょい日本語をはさみ込んで来る。
 たとえば、

 "Oh,rock!" 「おお、石!」 「おお、いし。」 「おおいしぃ。」 「おいしい!」

 「(無言で肩を素早くぐるぐる回しながら)だね。」(早く肩を回す。) 「早 肩ね。」 「はや かたね。」 「はやかったね。」

 と、いう具合に。

 最近は、6歳の姪から習った「とにかく」を練習中。その他にも「安全第一」や「あちこち」、島の方言の「わたのひち(おなかがすいた)」や「まあさ(おいしい)」がお気に入り。

 
 我が家は8割、9割英語で会話をしている。だからと言って、私の英語がイケテルわけではない。四苦八苦である。だから、時々、「日本語で話す日をつくろうよ。」と提案すると、「それじゃあ、1日中会話がなくなるよ。」と、アブちゃんは言う。
 確かに、「びっくりドンキー」や「おお、ロック!」では話が続かない。

 だから、時々、本屋に行って英会話や日本語会話の本を探してみる。アブちゃんが、うれしそうに「あったよ!あったよ!!」と呼ぶので、行ってみると、カップルや夫婦の夜の会話表現のページを見つけて、周辺の人に聞こえるように声に出して練習している。
 
 ひっかかりながら、
 「きょうは せくすぃ だ ね。」とか、「いっしょに いかない?」とか、ナンパの場面やその後の会話を楽しそうに口頭練習している。とても書き表せない言葉の数々。

 そういう表現は絶対使わないのに、おもしろがって本屋さんで日本語の練習をしている。そして、彼が楽しんだそのような本は買われることなく、アブちゃんは強制連行されて家に連れて帰られる。

 
 外国人の友達に「国際結婚って難しくないの?お互いのこと、理解できる?」と、聞かれたことがある。
 
 答えは、「はい、理解したいと思うよ。」

 どこの国の人と付き合っていても、結婚していても、お互いのことに関心を持って、お互いのことを話して、相手を理解しようと思えば、その気持ちを持ち続ければ、きっとその縁は続くんじゃないかなと思う。

 結婚して思うことは、国際結婚だから理解しあえるかどうかではなくて、結局は人と人だろうなと思う。思いやりや相手への尊敬や関心を長い間積み重ねながら絆をつくっていくのかもなと思う。

 我が家はけんかにならない。不思議に思ったことやわからないこと、今日あったこと、感じたこと、興味のあること、いろんなことをとても穏やかに話しながら毎日を過ごす。そうすると、相手の考えていることや相手の次の行動がわかる。だから、言葉もいらなくなる。

 それでも、おしゃべりをしたり、2人でハイキングやゲームやツーリングをしたりして、その中で新しい相手の一面を知る。一緒に楽しみながら、それを分かち合う。

 言葉や文化や育った環境や習慣は確かに違う。でも、それは日本人同士でも同じことで、特に日本の社会では忙しい毎日の中で相手だけでなく自分さえも思いやる時間が少ないから、時間や気持ちに「ゆとり」が持てる生活ができるといいなと思う。そして、お互いの違いをどうすり寄せ合って、よりよい方へ互いに導いていけたらいいな、と思う。

 今日もアブちゃんは「まあさ(おいしい)。」と言いながら朝食を終え、寒い中をチャリで仕事に出かけた。

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